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仙台地方裁判所 昭和50年(わ)253号 判決 1983年9月19日

本店所在地

仙台市一番町一丁目二番一一号

横山商事

有限会社

(右代表者代表取締役 横山よし子)

右の者に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官坂本光右出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人横山商事有限会社を罰金二、三〇〇万円に処する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人横山商事有限会社(以下被告会社という)は、昭和四〇年八月、土地販売等を営業目的として設立され、仙台市一番町一丁目二番一一号に本店を置く有限会社であるが、被告会社設立の当初から死亡した昭和五七年六月二六日まで、代表者代表取締役として、その業務全般を統括していた横山新二郎は、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、架空仕入及び架空経費を計上して簿外の架空名義及び他人名義の銀行預金を設定するなどの方法により被告会社の所得を秘匿したうえ、昭和四八年三月一日から同四九年二月二八日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六億八三四万五、八〇六円(別紙Ⅰ修正損益計算書のとおり)で、これに対する法人税額が二億二、〇七六万七、九〇〇円であったにもかかわらず、同四九年四月三〇日、仙台市中央四丁目五番二号所在の仙台中税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二億九、四七五万五、八〇六円で、これに対する法人税額が一億五五二万六、四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五一年押第三七号の三七)を提出し、もって不正の行為により被告会社の右事業年度の正規の法人税額と右申告額との差額一憶一、五二四万一、五〇〇円(別紙Ⅱ法人税額計算書のとおり)を免れたものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  証人鈴木徹の当公判廷における供述

一  公判調書中の証人留目友子(第一〇、一一回)、同菊地徹郎(第一二ないし一四回)、同矢部忠一(第八回)及び同渡辺利夫(第五回)の各供述部分

一  丹羽正行、青山誠及び高本智之の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書

一  大蔵事務官川口正意作成の銀行調査書類及び同矢部貞夫作成の預金調査書

一  株式会社七十七銀行卸町支店長作成の証明書

一  登記官佐藤三佐衛門作成の登記薄謄本

一  検察事務官作成の電話聴取書

一  押収してある総勘定元帳一綴(昭和五一年押第三七号の二)、現金預金出納帳一綴(同号の三)、重要書類綴一綴(同号の四)、当座小切手帳一冊(同号の四二)、同控一〇冊(同号の五)及び確定申告書一通(同号の三七)

一  第二回、第四回及び第六回公判調書中の横山新二郎の各供述部分

一  大蔵事務官の横山新二郎に対する質問てん末書七通及び同人の検察官に対する供述調書七通

別紙Ⅰ修正損益計算書中勘定科目仕入高の二億五、六五〇万円の犯則の事実について

一  証人菊地徹郎の当公判廷における供述

一  第九回公判調書中の証人千田次男の供述部分

一  齋瑞夫、村田敏江及び菊地得雄の検察官に対する各供述調書

一  株式会社徳陽相互銀行本店営業部預金課長及び株式会社七十七銀行本店営業部長各作成の証明書

一  押収してある振替伝票三通(前同押号の六の一ないし三)、手帳二冊(同号の七、四一)、伝票綴一七綴(同号の八、九の一、二、同号の一〇、一一の一、二、一五ないし一七、一八の一、二、同号の二一、二二の一、二、同号の二三、二四、三六)、通知預金元帳一枚(同号の一二)、納品書控一冊(同号の一三)、預金利息支払計算書一通(同号の一四)、定期預金取引用印鑑届(申込書)一通(同号の一九)、定期預金元帳一枚(同号の二〇)、当座勘定銀行元帳控綴一綴(同号の二六)

同勘定科目支払手数料の六、〇〇〇万円の犯則の事実について

一  公判調書中の証人小玉敬重(第六回)、同吉田耕二(第七回)及び同菅原吉平(第八回)の各供述部分

一  大蔵事務官斉藤恵二郎外一名及び同伊藤招三外一名各作成の調査書類

一  株式会社住友銀行仙台支店長作成の証明書

一  押収してある領収証綴一綴(前同押号の二七の二)、印章二個(同号の二八、三一の一)、総合口座通帳一冊(同号の二九)、通知預金元帳(申込書)一通(同号の三〇)、伝票綴三綴(同号の三二、三三、三四の六)、領収書綴一綴(同号の三五)

同勘定科目未納事業税の二九一万円の犯則の事実について

一  大蔵事務官作成の未納事業税額計算書

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、別紙Ⅰ修正損益計算書の勘定科目中仕入高の二億五、六五〇万円及び支払手数料六、〇〇〇万円を除くその余の各勘定科目については争わないが、右仕入高及び支払手数料については、いずれも検察官が主張するような架空経費ではなく、二億五、六五〇万円は開発協力費として菊地徹郎に、六、〇〇〇万円は手数料として不動産企画株式会社に現実に支払われ、それぞれ有効に贈与されたものであり、右菊地や不動産企画株式会社が実在し、商業帳簿上もその取引が記帳されていることをも考慮すると、被告会社の当時の代表者代表取締役横山新二郎(以下横山という)が、偽りその他不正の行為により法人税を免れたという構成要件該当の実行行為に及んでいないことは明らかであり、また、同人にその故意もなかった旨主張するので、右主張の当否につき判断する。

前掲各証拠によれば、以下の事実を認めることができる。

1  被告会社は、昭和四七年九月ころから、西武都市開発株式会社、日本ビル開発株式会社(以下西武、日ビルという)との三社提携により宮城県桃生郡鳴瀬町所在の土地一〇〇万坪余を買収して行う宅地造成等の開発事業に乗り出したこと、その際、右土地の買収には被告会社が直接あたり、買収後これを日ビル、西武へ順次転売することが取り決められたが、当時、買収予定地域は都市計画法上の市街化調整区域となっており、しかもその一部は県立自然公園第二種保存地区の指定地となっていて、開発事業をすすめるにあたっては、地元及び中央政界の多数の政治家にはたらきかけて右区域指定を解除してもらう必要性が生じていたこと、他方、土地の所有者らからは、昭和四八年三月ころから、土地の買い上げ価格の増額を求める動きがおこり、買収活動が停止したので、被告会社は、その要求を押さえるように努力するとともに、西武に転買価格の増額を要求し、数回の交渉を経て同年一〇月ころ西武にその要求をのませたが、右交渉の過程で西武から土地の売買契約書や被告会社の収支の状況を開示するよう強く求められたこと。

2  横山は、右の経過から、政治家に政治献金をするための裏金を作ろうと考えるとともに、当時三億円にものぼると予想された被告会社の当期利益を西武に知られないようにし、併せて右利益に対する法人税を免れる目的で、昭和四八年一二月ころ、被告会社の経理事務を処理するために出入りしていた会計事務所の事務員菊地徹郎に対し、二億五、六千万円くらいを同人に支出する形にしたい旨申し入れてその承諾を得たこと、そして翌四九年一月一二日ころ、被告会社から同人宛に、二億五、六五〇万円の小切手一通が振出され、同月二一日ころ、七十七銀行卸町支店に菊地徹郎名義で別段預金口座が設けられ、これにもとづいて同支店から同額の自己宛小切手が振出されたのち、徳陽相互銀行本店に菊地名義の同額の通知預金が設けられたが、その通知預金証書及び預金の際作成した菊地名義の印鑑は横山が自宅に保管していたこと、ところで、横山は、右二億五、六五〇万円の支出が正当な経費であると見せかけるため、菊地との間で、そのころ、金額二億五、六〇〇万円を受領した旨の領収「証」を作成したほか、被告会社の本件事業年度を経過した後の昭和四九年三、四月ころ、右金員の授受に関し、菊地が被告会社の鳴瀬開発事業に社外社員的立場で専心し、その報酬として被告会社の松島、野蒜地区についての土地売買等による総収入額の五パーセントくらいを受領する旨の内容虚偽の「確認書」(昭和四八年一〇月一日付け)、「報酬算定同意書」(同四九年一月一五日付け)及び「念書」(同月二〇日付け)を作成したこと、そして、同年四月三日、右通知預金は解約され、そのうち、四、四八九万七、七四九円が徳陽相互銀行本店に、二億円が七十七銀行本店にそれぞれ菊地名義の定期預金として預け入れられ、残金一、三〇〇万円は七十七銀行卸町支店の被告会社の当座預金口座に預け入れられたが、右定期預金証書二通も横山が自宅に保管していたこと、その後、仙台中税務署の税務調査や仙台国税局の強制調査が行われたところ、昭和五〇年二月二八日に至り、右定期預金二口はいずれも解約され、その元利合計金が七十七銀行卸町支店の被告会社の当座預金口座に預け入れられたこと

3  また、横山は、前同様の目的で、昭和四九年二月二〇日ころ、主に東京方面で金融業を営んでいる不動産企画株式会社の代表取締役小玉敬重、同吉田耕二に対し、「六、〇〇〇万円を送るから一時預かっておいてくれ。」と依頼し、同月二八日ころ、七十七銀行卸町支店の被告会社の当座預金口座から平和相互銀行八重洲口支店の不動産企画株式会社の普通預金口座に六、〇〇〇万円を送金したこと、しかし、横山は、同年三月五日ころ、東京に赴き、横山の指示で事前に右預金口座から六、〇〇〇万円を引き出していた小玉から五、五〇〇万円を受領し、そのうち二、五〇〇万円を住友銀行仙台支店の青山光久という架空人名義の普通預金口座に預け入れ、残金三、〇〇〇万円を自宅に持ち帰り保管していたこと、その後右六、〇〇〇万円の支出が正当な経費であると見せかけるため、小玉、吉田との間で、不動産企画株式会社が被告会社の鳴瀬開発事業に協力する旨の内容虚偽の「契約書」(昭和四八年七月一五日付け)及び六、〇〇〇万円を契約にもとづく礼金として受領した旨の「領収証」を作成したこと、そして、横山は、昭和四九年六月一七日ころ、右青山名義の預金を解約して一旦払戻金を自宅に保管したうえ、同年一二月一七日ころ、前記三、〇〇〇万円と合わせて五、五〇〇万円を七十七銀行卸町支店に村上公治という架空人名義の通知預金とし、前記税務調査、強制調査が行われた後の翌五〇年一月三〇日、右通知預金を解約し、その元利合計金を七十七銀行卸町支店の被告会社の当座預金口座に預け入れたこと

がそれぞれ認められる。

以上の事実に照らすと、横山は、当時、鳴瀬開発事業等に関し政治献金をするための裏金を作り、或いは、本件事業年度における被告会社の多額の利益を西武に知られないようにし、併せて右利益に対する法人税を免れようと企て、菊地徹郎、小玉敬重、吉田耕二らの協力を得て二億五、六五〇万円と六、〇〇〇万円の各金員を前記のとおり会計処理し、その後も、実質的に右各金員を自己が管理、支配し、右会計処理を真実と見せかけるため「確認書」「契約書」等内容虚偽の文書を作成したことが明らかである(右事実に沿う証人菊地徹郎の当公判廷における供述、公判調書中の証人小玉敬重(第六回)、同吉田耕二(第七回)の各供述部分、横山新二郎の検察官に対する昭和五〇年七月四日付け及び同月二日付け各供述調書の記載はいずれも十分信用するに足りる。)。

したがって、右各金員は、昭和四八年度の被告会社の所得であって、仕入或いは支払手数料として同事業年度における損金に計上できないものであることは明らかである。

弁護人は、右各金員がそれぞれ被告会社から菊地徹郎、不動産企画株式会社に有効に贈与されたものである旨主張するが、本件全証拠によるも、被告会社と菊地や不動産企画株式会社との間に本件のような巨額な金員の贈与を納得させるに足りる関係が認められないことや、前記認定の事実、特に、正当な支出と見せかけるため内容虚偽の文書を作成していること、そしてその後も、横山が預金通帳などを排他的に管理し、金員の管理支配を続けていたことなどを考慮すると贈与の事実は認め得ず、右主張は採用することができない。

また、弁護人は、右各金員については、菊地徹郎及び不動産企画株式会社から所得税、法人税の確定申告がなされることが予定されていたから、被告会社の本件所為は、税の賦課徴収を不能若しくは著しく困難ならしめたとはいえず、「偽りその他不正な行為」に該当しないと主張するが、現行税法は所得が帰属した各個人、法人においてそれぞれ納税義務を負い、これを申告すべきことを定め、申告に当っては、個々の納税義務者の納税倫理に期待して租税収入の確保をはかっているのであって、前記のとおり、自己に所得が帰属しているのに、予め内容虚偽の「確認書」や「契約書」などの書類を作成して右所得を架空ないし他人名義の銀行預金とするなどの方法を講じたうえ、内容虚偽の確定申告をした本件所為は、右納税原則に反するものであり、被告会社に対する法人税の賦課徴収を著しく困難ならしめるものと考えられ、被告会社は本件刑責を免れないものというべきである。

また、前認定の事実によれば、横山が、利益を隠すことを目的とし、自らの意思に基づき、従業員らに命じ、その事実がないのに、二億五、六五〇万円を仕入高、六、〇〇〇万円を支払手数料として会計処理し、内容虚偽の前記各書類を作成し、架空ないし他人名義の銀行預金口座を設定するなどしたうえ、右各金員を損金に計上して法人税の確定申告をしたことは明らかであるから、横山において前記のような不正な手段を用いて被告会社の本件事業年度の法人税を免れることについての故意に欠けるところはなく、弁護人の右の点の主張も採用することができない。

(法令の適用)

被告会社の判示所為は、行為時においては昭和五六年法律第五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律による改正前の法人税法一六四条一項、一五九条一項に、裁判時においては右改正後の法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当するが、右は犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、逋脱額が五〇〇万円をこえるので情状により右改正前の法人税法一六四条一項、一五九条二項を適用した罰金額の範囲内で被告会社を罰金二、三〇〇万円に処し、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項但書により被告会社に負担させないこととする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野口喜蔵 裁判官 北野俊光 裁判官 波床昌則)

別紙Ⅰ

修正損益計算書

自 昭和48年3月1日

至 昭和49年2月28日

<省略>

(注)「公表金額欄」の※印の金額は、法人税確定申告書上で所得金額に加除算した金額である。

別紙Ⅱ

法人税額計算書

<省略>

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